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皇都午睡
三編上
家づとに、五福といふ人、以前叡山より下りて、鞍馬山へ廻りて、京都への帰るさ、此八瀬村にて駕籠お借たる事お記せり、八瀬村下り口、坂本と雲茶屋にて駕籠お頼みしに、此辺の者は、終に駕籠など舁たる事なしと断るお、漸く頼みて、若者両人お雇ひ、隣家にて古き打上かご(○○○○)お借り持来たるが、其かごの棒、乗物の如く両端お同じ程に出し、扠杖といへば、樫の丸太作りにて先程太く、中々おもき杖と見ゆるお突、かごにて鞍馬迄二里半計の山坂お、唯一肩にて飛が如くに行り、杖お立肩おかへるといふ事なし、肩かへざるはいかにと問に、右に雲丸太の杖お以て、右肩よりかごの棒おくじき持て、一二町づゝ柴お荷ひたる如くにして、左の肩お休める事ゆえ、何里往ても肩おかへず、杖お立ず行がゆえ、その早き事、早打駕籠同前なり、両掛もちも供人も、息なしには困り入たるよし、今に思ひ出して独笑お催す、京より才二三里にて、斯まで物事の違ふよしお書り、