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古今要覧稿
時令
みなつき〈六月〉 みなつきは六月の和名にして、ふるくより物にみえたり、いはゆる戊午年六月(みなつき)と、日本書紀〈神武紀〉にしるせるぞはじめなる、夫より以下は、万葉集に不尽嶺爾(ふじのねに)、零置雪者(ふりおくゆきは)、六月(みなつきの)、十五日消者(もちにきゆれば)、其夜布里家利(そのよふりけり)とよみ、古今和歌集夏歌詞書に、みなつきつごもりの日ともいひ、みなつきの河辺のはらへに夜更てと〈秘蔵抄〉いひ、和名類聚抄には、此月の名季夏とのみしるして、みな月の和名お出さず、八雲御抄にも、六月みなつきとしるさせ給ひたるお、ひとり此月の名義お解るは、いはゆる農の事も、みなしつきたる故に、みなし月といふおあやまれり、一説に、此月まことにあつくして、ことに水泉かれつきたる故に、水なし月といふおあやまれりと、〈奥義抄〉いへるぞはじめなる、しかれば清輔朝臣の比ほひ、既に二説なるお、後世おほく前説おとらず、後説にのみよれり、水無月といふは、水かれて尽るの義也と〈東雅〉いひ、六月和名水無月といふ、まことにあつくして、ことに水泉かれつきたるゆへに、みづなし月といふと〈日本歳時記〉いひ、水無月、六月之和名也、此月炎暑甚、水泉涸尽、故曰水無月と〈歳時語苑〉いひ、水無月水気干発するお雲ふと〈跡部光海翁説〉いひ、水なし月といふお略して、水無月といふと〈恵美須草〉いふたぐひ、奥義抄の後説によりしなり、又此月の名お、かみなし月と解く説あり、類聚名物考に、六月、みな月、或人の雷月なるべしといへる理にこそといひ、加茂真淵も、六月お美奈月といふ、加美那利月の上下お略けり、十月は除月にて雷のならねば、かみ無月といひ、六月は専ら雷の鳴故にむかひて、此名ありと〈語意〉いへるは、蔵玉集、此月お鳴雷月といへるにかなへば、亦此説もすてがたしといへども、農事によりて、とく方然るべし、扠異名のごときは、六月、すヽくれ月と〈秘蔵抄〉いひ、すヽくれ月、松風月と〈莫伝抄〉いひ、風待月、鳴雷月、常夏月と〈蔵玉集〉いへり、林鐘と〈年中行事秘抄〉みえたるは律名にして、礼記月令、史記律書、淮南子時則訓、春秋元命苞、白虎通等に見えたり、