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古今要覧稿
時令
のちのつき〈閏月〉 閏月お以て、うるふづきとよめるは、皇国にては後世の事なり、ふるくはのちの幾月とよめり、日本書紀仲哀天皇紀に、元年冬閏十一月(のちのしもつき)とみえたるおはじめとせり、此天皇の御時より以下皆閏月お以て、のちの幾月とよみ来りしお、三百九十年お経て、敏達天皇の十年にあたり、二月に閏あり、潤字お用ひて、のちとよみたり、西土にては秦漢よりして、閏お以て後のそれの月といへり、いはゆる秦二世二年後九月と〈史記秦楚之際月表〉みえ、後九月懐王并呂臣項羽軍と〈漢書高帝紀〉みえたり、且閏お以て歳終に置事古例なり、左伝によるよし、師古が漢書注に弁ぜり、秦用顓帝暦、十月為歳首と〈天中記引左伝講釈〉いへり、漢は秦の制お用て、以十月為歳首、故秦漢以九月為歳首、是によりて史記秦楚之際月表、漢書高帝紀等、閏月おばみな歳終に置ゆえに、後九月と記せり、書紀に閏月お記せる所あまたあれども、潤字お以て塡しは、敏達紀、持統紀のみなり、持統紀には閏月ある毎に、皆潤字お書たり、此頃より潤字にうるふの訓あれば、潤字おうるふとよみならひしなるべし、古今和歌集にうるふ月とみえたれば、その前よりいひし事しられたり、此おもつて考ふるに、持統天皇の紀に閏おしるすに、潤字のみお用ひたりしより、いつとなくのちの月といはずして、うるふとのみとなへし事なるべし、万葉集には、閏およめる歌見えずして、延喜の頃より閏月およめる歌多くみえたり、又五月二つある年、みな月二つある年など、撰集歌集等にあまた出たり、閏おうるひとよみしも歌あり、又同じ歌の初句ばかり、あまりさへとかへて、以下は句上におなじきお、後撰集に入て、よみぬしも貫之なれば同歌也、あまりとよめるもいと面白きことなり、いはゆる先王之正時也、履端於始、挙正於中、帰余於終と〈左伝文公伝〉みえ、閏月者附月之余月也と〈穀梁伝〉みえ、黄帝起消息正潤余、則閏蓋余分之月也と〈史記〉みえ、閏余分之月と〈説文〉見えたるお以て見れば、是等の説に貫之もよられしなり、また月日のそふとよめるは、歌に、織女のまつに月日のそふよりはあまる七日のあらばあれかし、と〈赤染衛門集〉見え、月のかさなる、或は数くはヽれるとしと〈新撰六帖〉みえたり、又春の閏月お、春くはヽれる年と〈古今和歌集〉よみ、秋にはあまりある秋とよみ、冬は冬のあまりにと〈六帖古今〉よみ、三冬しそへばとも〈新撰六帖〉よめり、詳にあぐるにいとまあらず、扠西土の書初て閏の事おしるせるは、帰奇於材以象閏と〈易繫辞〉みえたるお始とせり、年に閏お置事は、四時の気候おさだめ、水旱風雨の憂お推量し、寒熱温凉其時に応ぜしめて、正時お以て元とせり、且民時農業にかヽはりて肝要の事也、故に期三百有六旬有六日、以閏月定四時成歳以授民事と〈尚書尭典〉みえたるにても、三代の時より閏お置て以て時お正し、順不順の時気お補ふ事、聖人以定置給ひし事なり、故に閏は失ふべからず、もし閏お失ふ時は、則百姓何以てか其生お安んぜんや、左氏曰、閏以正時、時以作事、事以厚生、生民之道、於是乎在矣と〈文公伝〉みえたるにても、閏お置ずして、かなはざる事しられたり、又置閏定め大数極まりあり、いはゆる十一歳四閏、十九歳七閏是也と、〈漢書律暦志〉純奏曰、三年一閏天気小備、五年再閏天気大備と〈後漢書〉みえ、三年一閏、五歳再閏也、明陰不足陽有余也、閏也者陽之余也と〈白虎通〉みえ、凡閏六歳再閏、又五歳再閏、又三歳一閏、凡十九歳七閏為一章と、〈玉燭宝典引王輔嗣注〉みえたるお以て、置閏の定め次第ある事しられたり、又閏と閏との間月お、隔事三十二月にして、一閏おうるなり、いはゆる大率三十二月則置閏と〈正字通陳氏説引〉みえ、古暦十九歳為一章、章有七閏、三年閏九月、六年閏六月、九年閏三月、十一年閏十一月、十四年閏八月、十七年閏四月、十九年閏十二月と〈同上〉いへるは、其大率お月に配当せるなり、もし一度失閏ば、十二月螽出るに至れり、是時猶温なればなり、故に十有二年冬十有二月螽と〈春秋〉記せり、又康季子問於孔子曰、今周十二月、夏之十月、而猶有螽何也、孔子対曰、丘聞之火伏而後蟄者畢、今火猶西流、司歴過也と〈家語〉いへり、此閏お失へる事おいはれし也、草木鳥獣無心にして、自から時おしれり、いはゆる惟有黄楊厄閏年と〈東坡詩〉いひ、黄楊木歳長一寸、閏年倒長一寸と〈埤雅〉いひ、俗説歳長一寸過、閏則退、今試之、但閏年不長耳と〈本草綱目〉いへり、梧桐可知閏月、無閏生十二葉雲々、有閏則生十三葉、視葉小者則知閏何月也と〈遁甲〉〈書〉いへるは、猶よく閏おしるものなり、閏生応月、月生一節、閏輒益一と〈埤雅〉いひ、茈菰歳有閏則十三実と〈爾雅翼〉いひ、牡丹遇閏歳花輒小と〈同上〉みえたり、又椶櫚遇閏則生半片、歳長十二節、閏年増半節と、〈石室奇方〉雲南和山花樹高六七丈、其質似桂、其花白、毎朶十二弁応十二月、遇閏輒多一弁と、〈雲南志〉優曇花在安寧州西北十里曹渓寺右、状如蓮有十二弁、閏月則多一弁と、〈同上〉鳳尾十二歙、遇閏歳生十三歙と〈羽毛考異〉いへり、草木禽鳥よく閏おしれり、