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徒然草

夜に入て、物のはへなしといふ人、いと口おし、万の物のきらかざり、色ふしもよるのみこそめでたけれ、ひるはことそぎ、およすげたる姿にてもありなん、よるはきらヽかに、はなやかなるさうぞくいとよし、人のけしきも、よるのほかげぞよきはよく、物いひたるこえも、くらくて聞たる、用意ある心にくし、匂ひも物のねも、たヾよるぞひときはめでたき、さしてことなることなき夜うち更て、まいれる人の、きよげなるさましたるいとよし、わかきどち、心とヾめて見る人は、時おもわかぬ物なれば、ことにうちとけぬべきおりふしぞ、けはれなくひきつくろはまほしき、よき男の日くれてゆするし、女も夜更るほどにすべりつヽ、鏡とりてかほなどつくろひて出るこそおかしけれ、神仏にも、人のまうでぬ日、夜まいりたるがよし、