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真暦考
一とせの来経行あひだお、四つにきざみて、春夏秋冬とぞいひける、これはた神代より然あり来ぬる事なれば、今その故は、いかなりとも知べきならねど、こヽろみにいはヾ、温なる、暑き、涼き、寒き、四つのかはりのあればなるべし、
抑一年は、四月より九月まで六月夏、十月より三月まで冬と、二つに分たらむも、又つねのごと四つにても、又二月づヽ六つに分ても、又四十五六日づヽ八つに分ても、みな同じことにて、難なかるべき中に、四に分れたるは、かならず然るべきおのづからのさまなり、暑き寒き中間に、暑からず寒からずて、温なる時と、涼しき時とのあれば、二つにてはたらず、六八にてはくだくだしくて、過たればなり、さて温なる、暑き、すヾしき、寒きによりて、分れたらむにつきて、おのおのその中央おもてなかばとせば、二、三、四月お春、五、六、七月お夏、八、九、十月お秋、十一、十二、正月お冬ともさだむべし、三月は温なるなかばなれば、春のなかばとし、六月は暑きなかばなれば、夏のなかばとするが如し、されどさはあらで、皆その始おはじめと定めたる物なり、正月はあたたかなる始、七月はすヾしき始なる故に、春と秋とのはじめなるがごとし、余もみな同じ、これらも神の御心もてさだめませる物なり、
此春夏秋冬てふ名ども、いと〳〵古く聞えて、古事記、書紀の歌どもにも、おり〳〵見えたり、
春日といふこと、書紀武烈御巻の影媛の歌に見え、夏虫といふこと、仁徳御巻の磐媛命の御歌に見え、夏草といふこと、古事記の遠飛鳥宮段の、衣通王の御歌に見え、秋の田といふこと、万葉集二の巻の磐媛命の御歌に見え、冬木といふこと、古事記明宮段の吉野の国栖人が歌に見えたり、此ほか歌ならぬは、猶ふるきもあり、
かくてこのよつの時お、又はじめ、なかば、末と、三つづヽにきざみて、春の始、秋のなかば、冬の末などいへりき、