[p.0102][p.0103]
古今要覧稿
時令
四時 夫よつのときは四時なり、四時之為言四季なり、四季は四選なり、四選は春夏秋冬なり、春夏秋冬、是およつのときといふ、このよつのときの名目の、かけまくもかしこき皇ら御国にて、物にみえ初しは、神代にはじまれり、いかにとなれば、古事記、日本書紀等に、春夏秋冬の文字、既に出たれば、これらおや証とはすべき、こヽに有二神弟名春山之霞壮夫と〈古事記〉いひ、又夏高津日神、秋毘売神、冬衣神〈同上〉の御名見えたれば、いとふるき事なり、されば春夏秋冬の名おもて、既に其頃神々の御名に冠らしめ給ふなり、こヽおもてみれば、はるかにその以前より、春夏秋冬時おたがへずして、四時の和行なはれ、春立夏過秋至冬往し事しられたり、また素盞嗚尊春則重播種子と〈日本書紀〉いひ、又日神尊以天垣田為御田、時素盞嗚尊春則塡渠毀畔と〈同上〉いひ、また秋則於天班駒使伏田中と〈同上〉見えたるぞ、春といひ、秋といふ事の始にて、たしかなる証とすべし、この以前既に伊奘諾尊、伊奘冊尊の、豊秋津洲お生み給ふことみえたれども、秋津洲の秋は、春秋の秋とたしかにはいひがたし、春則みぞおうめ、秋則あまのふちこまお、御田の中にふすとみえたるぞ、共に農作の事にかヽれば、四時の春秋なる事義明らけし、また春過而(はるすぎて)、夏来良之(なつきたるらし)と〈万葉集〉いひ、秋立者(あきたてば)、黄葉頭刺理(もみぢかざせり)と〈同上〉いひ、冬木成(ふゆごもり)、春去来者(はるさりくれば)と〈同上〉いふも、共に四時の移りかはれるさまお詠ぜしなり、また伊波比回礼(いはひもとほり)、四時自物(しヽじもの)と〈同上〉いふは、しヽといふけだものヽ名に、四時の文字お仮用ひ、また春夏秋冬の祭お、四時祭と〈延喜式〉いひ、また四時お春夏秋冬と〈和名類聚抄〉いひ、また春為青陽、夏為朱明、秋為白蔵、冬為玄英と〈拾芥抄〉いふも、則四時の事なり、又四時お四季といひしこともあり、四季異名何と〈壒嚢抄〉いふ、その下に各に四時の異名お挙たり、またよつのとき四季なりと〈藻塩草〉いひ、春は四時の始にして小陽なり、一年の始なれば、賀する事四時の中に勝れたりと〈続節序記〉いへり、又西土にては四時といふ事の、ふるく物にみえしは、周易おや始とすべき、曰日月不過、而四時不惑と〈周易〉みえ、期三百有六旬有六日、以閏月定四時成歳と〈尭典〉いひ、一歳之中有四時、一時之中有三長天之節也と〈春秋繁露〉いひ、礼記には天有四時春秋冬夏と〈孔子間居〉いへるなど、もつとも証とすべし、〈◯中略〉抑四時は春夏秋冬なり、四時の始お春といひ、二お夏といひ、三お秋といひ、四お冬といふ、春は天地開辟之端なり、春は生じ、夏は長じ、秋は収り、冬は蔵す、此天地之大経也、春道生万物栄、夏道長万物成、秋道斂万物盈、冬道蔵万物静、夫春之為言惷也、万物惷然而生也、夏仮也、寛仮万物使生長也、秋鞦也、鞦迫万物使時成也、冬終也、物終成也、まことに四時の徳大なる哉、至れる哉、夫生物者春なり、吐華者は夏なり、布葉者は秋なり、収成者は冬なり、春夏秋冬之序、皆以斗柄所指定之、斗柄、指東曰春、指南曰夏、指西曰秋、指北曰冬、〈鶡冠子〉春夏秋冬各三月而為一時、一時各三月あり、三月各孟仲季あり、春夏秋冬合せて一年おなせり、一年の月数十二月あり、十二月の日数三百六十余日あり、三月の日数九十余日あり、是九十余日は三月にして、三月は則一季一時にして、春三月あり、夏三月あり、秋三月あり、冬三月あり、偖春三月の始お初春と〈和名類聚抄〉いふ、正月なり、次お仲春といふ、二月なり、次お暮春といふ、三月なり、〈同上〉夏の首めお首夏といふ、四月なり、次お仲夏といふ、五月なり、次お季夏といふ、六月なり、〈同上〉秋の初お初秋といふ、七月なり、次お仲秋といふ、八月なり、次お季秋といふ、九月なり、〈同上〉冬の孟めお孟冬といふ、十月なり、次お仲冬といふ、十一月なり、次お季冬といふ、十二月なり、〈同上〉皆孟仲季おもて次第し、各三月にして一季なる、則一時終るなり、十二月にして四季尽ぬ、則四時終るなり、此四時一周して成歳といへり、