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古今要覧稿
時令
春 春は張なり、事々物々皆はりいづる義なり、故に春則重播(しきまきし)種子と〈日本書紀〉いふ、その苗の出る時節なれば、種子おまきしなり、是春といふ名目のみえし始なり、〈◯中略〉梓弓春と〈万葉集〉いひ、又春張作(はるははるながら)と〈同上〉いひ、木のめもはるの雪ふればと〈古今集〉いひ、又このめはる雨、衣はるさめなど、歌によみつヾくるも、みな張発する義にとれり、天地人の三才お以ていへば、天にありては、春は日光発陽して日お追てのどかなる、是陽気ましくはヽるも、はりみてる意なり、春立初る日より、天もかすみ渡りて、旧冬のみじかき日も、次第にのびはり、地にありては、草木根株おのづから地中より、地上に萌芽はり出るなり、人の上にていへば、人意も草木の芽はりいづるが如くに、立春の朝より、気おのづからのびらかにして、人気おのづから発陽し、心いさましくおもはるヽ、皆はるといふ訓意にかなふなり、春夏秋冬の訓義、或は時節にとり、或は寒暑の気にとり、或は方角にとり、或は五行にあて、或は五色の色に配当するあり、或は十幹にあて、或は天名あり、いはゆる春為蒼天と〈爾雅〉いふ是なり、