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古今要覧稿
時令
夏 夏は熱也、なつといふはあつといふ語の転ぜしなり、春ののち炎熱の時おいふなるべしと〈東雅〉いへり、皇国にてふるく夏といふ事義のみえしは、夏高津日神と〈古事記〉みえたり、此夏字則あつき義にとれるなるべし、高津日は高き日也、津は助字なり、〈那丙が爾雅の疏には、夏気高明、故以遠大言之といふも、夏高津日といふにあへり、〉されば夏の日ながくして、空にいつまでも日影とまりて、かたぶきがたければ、空に日高きといふ義にとりて、神の御名にかうぶらせ奉りしなり、夏冬の二時は、気によりて名おなしたるなり、夏は炎暑にあひては、あヽあつと衆人おしなべていひ侍るも、いとたえがたければ、言に発していふなり、故になつといふは、あつといふ義明かなり、