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日本歳時記
三二月
春分は、日夜の長さひとしき時なり、寒暖も亦ひとし、しかれども夜あけて日の出るまで二分半お暁とし、日入て暮まで二分半お昏とす、昏暁合て半時は夜に属すといへども、その明らかなること昼におなじければ、日夜ひとしき時といへども、猶夜より日は長し、冬至に一陽来復して、漸陽気生じ、日もながくなりて、春分にいたり日夜ひとしくなる、〈◯中略〉
春分は陽気のやうやく発くる時にして、寒温のさかひなり、故に春分の節に入し後、はやく諸菜蔬の種お下すべし、万のたねおうゆるに、春分お期とする事お悪しくいひならはして、彼岸に物だねおまくといふ、愚民はせむるにたらず、士君子たる人のいへるはいとくちおし、春分は陰陽日夜のひとしき時にして、一年の大節なる事おしらざるにや、又凡花草の苗おわかち種べし、およそ此時たねおまき、根おわかちうゆべきものは、甜瓜、菜瓜、茄、壺蘆、冬瓜、糸瓜、胡瓜、芋、牛蒡、稷、煙草、地膚、莙蓮、蘘荷、蕃椒、木綿、韮、薤、莧、百合、蓼、紫蘇、萵苣、甘露子、牽牛子、鶏冠花、雁来紅、萱草根、葵等なり、