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日本歳時記
三二月
もろこしには社日とて、春秋に二度土の神お祭る事あり、土はよく万物お養ひ五穀お生ず、故に祭る、春は農事のよからん事おいのり、秋は其の恩徳お報ずる意となん、その日は、立春の後、第五の戊の日お春社とし、立秋の後、第五の戊の日お秋社とす、〈十干の中、戊己は土なり、故に春秋ともに戊の日お用るとぞ、〉礼記にも、仲春択元日命民社とあり、〈元日は吉日の意なり〉風俗通にいはく、共工の子お修といふ、遠遊おこのみ、舟車の至るところ、足跡の達するところ、窮覧ずといふ事なし、故に祀て社神とす、左伝にいはく、共工氏子あり、勾竜氏といふ、平水土、故に祀て以て社とす、礼記郊特牲に、砺山氏の天下おたもつ時、その子お農といふ、よく百穀おうゆ、夏の衰ふるに及て、周の棄継之、故に祀て以て稷とす、共工氏の九州に覇たる時、その子お后土といふ、よく九州お平ぐ、故に祀て以て社とすといへり〈蔡邕がいはく、棄、百穀お播植ゆ、稷は百穀の長なり、故に稷お以てその神に名づく、〉それ社は土神なり、稷は穀神なり、土穀の神お祭る事は、人民お生養する故なり、もろこしにて、社日には村民たがひに来往して、酒食に酔飽すると見えたり、張演が社日の詩にも、家々扶得酔人帰と作れり、又此日の酒、よく聾お治む、故に治聾酒と名づくと、海録砕事に見えたり、また燕は、春社の時にいたり、秋社の時かへると、月令広義にあり、