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仮名暦註解
入梅 芒種の後、壬の日お入梅とす、六月節の後の壬の日お出梅とす、かくの如く三十日の内なり、出梅と雲ふは、入梅あける日なり、又入梅お梅雨とも雲ふ、 本草綱目に曰く、梅雨のとき、衣お添ば腐黒す、其ときは梅の葉お煎して洗へば、もとの如くになると雲へり、乃し往古より右の如く言伝るのみにて、梅雨のときには、湿ふかきこと奈何と雲ふ其説曾て無し、梅雨の時湿気ふかきは、愚〈〇山路主任〉按ずるに、夏至の日輪は、我居る所至て近き故に、万物極暑に旱付られて燥なり、冬至の日輪は、我居る所に至て遠き故に、極寒に氷付られて堅なり、然るに冬至より、日輪漸我居所に近づき、五月の節頃には日輪およそ我頭上に近よる故に、万物既に燥んと欲して、先蒸暑くしめ〳〵する、此時お梅雨と雲ふ、譬ば生木お火に焙るに、まづ湿気雫れて、後に燥なり、梅雨も又かくの如く、日輪の火気に照付られて、地上の湿気先雫るときなり、乃梅雨と名づけたるは、梅の実黄ばみ落る比なるに因て也、