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改正月令博物筌
七月
二百十日 立春より二百十日めおいふなり、今日の風お恐るヽは、二百十日は、早稲の花ざかり、二百廿日は中稲、二百卅日(○○○○)は晩稲の花盛り也、是より後は花ちり実になるゆへ、風吹ても稲にさはらず、稲の花は中に水の如き白きものあり、是米になる也、風ふけば、此水お吹ちらすにより、米出来ざるなり、雨ふれば、此水お花にてつヽむにより、風ふきてもさほどに害おなさず、雨なしの大風お恐るヽ也、東北より吹お、大坂にて上げといふ、此風吹つのれば、ひえてしけになり、西より大風にて、吹もどすにより、是おきらふ、東南の風おいなさ、或はいせこちと雲、あたヽかなれども、是もふきつのれば、大しけになる、すべて東より吹風は、雨にならざれば、西より大かぜにて吹もどす、雨になれば、さほどの事なし、大形は雨になりておさまる也、西北より吹お、あなせといふて日和よし、西南お沖気といふ、曇りてむし〳〵すれども、日和つヾくもの也、しかれどももしふり出せば、此日和は長きものにて、西より晴てくるかとおもへば、沖より雲おつきのばして雨になる也、此風吹つヾけば、日和も、曇りも、雨も、とかく長くつヾくもの也、申酉の方より吹お、ませといふ、日和つヾいてよし、東より吹こみ、西より吹風に、わいたといふ風あり、此風は地へふきつけて、其所より風次第にわきいづるごとく、大風になり、稲お損ずる事甚し、雲ありて北方は雨おつかさどる、歌にも秋北とよめり、秋は金なり、北は水也、金生水の理にて雨お生ずる也、しかれども夜晴て北風は日和よし、