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年号弁
去る年之冬、某〈◯新井君美〉在洛の日、前摂政殿下〈◯近衛家熙〉と本朝年号の事お論じ申ける事の候ひしに、某申す、我朝の今天子の号令天下に行われ候事は、ひとり年号の一事のみにて、異朝までも、末代迄も伝へ聞ゆべき所に、近き比ほひの年号、大きに古に及ばざる様に覚へ候、是は取用ひらるヽ字の、余り其数すくなく候によりて、〈僅六十余字歟〉しかるべき号の得がたきが致す所と存候へば、いかにも用ひらるべき御事の候もの哉と申候ひしに、されば今も新字勘進の事勿論也といへども、新字においては不祥の例あるよしお難じ申すに付て、陳ずるに其詞なきが故なりと答仰られき、