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年年随筆

元年は初年といふ事なり、一帝一元なる事いふもさら也、されど元は善之長なりとて、初年お元年といふか、もとより吉祥の名おもとめたるなれば、一帝幾千元なりとも、祥瑞怪異に元お改て、延寿消殃のはかり事あらんは、あるべき世のことわり也、それお惑なりといはヾ、元年も初年とぞいふべき、こは年の名号にて、後世よりあがれる代おいふに、分別しやすく、記億しやすく、便ありていとめでたし、此事から国にて、漢文帝よりはじまれり、かの帝即位十六年四月に、方士新垣平、使人持玉杯、詣闕献之、剗曰、人主延寿、又言、候日再中、居頃之、日却復、於是始更以十七年為元年と通鑑にみえたり、十七年おふたゝび元年となしヽは、傾きし日の再午時にかへりしにかたどれる也、さて景帝は三元、武帝は十一元、三元は即位元年中元年後元年といふ、中後とは後よりいふ称にて、その時は三つともに同じ元年二年なれば、事に臨みてまぎらはしかりけむ、武帝にいたりては、しば〳〵の改元なるに、名字なくては紛はしき故、建元、元光、元朔、元狩などやうに、年の名号お設けし也、いづれも吉祥おまねき、凶災お避るわざにて、和漢これおうけつぐ事なり、明世祖より、かの国は一帝一元なり、から書よむ輩、これおいみじき事にほめのヽしる、されどこれはいとしもなし、一帝一元がめでたくば、某皇帝初年二年にて事たれり、年号は何の料ぞや、漢文の惑おさとりて、漢武の従おふむ、おこ事なり、何のほむる事かはあらん、