[p.0379]
建武年中行事
春おむかふるほどは、内わたりなべてことしげヽれば、いづくお初めなるべしともわきがたきやうなれど、ところ〴〵の御装束ども、とのもりかもりの女嬬共、さわがしくいそぎとヽのへたるに、追儺はてヽ、砌のともしびどもかすかに見えわたるほど、四方拝の御装束いそがすめり、事行ふ蔵人小舎人やうのものこえ〴〵に、ことにつきたるも、折から所得たりがほなり、大宋の御屏風庭に立めぐらして、御座お北面によそふ、主殿司御湯おくうず、〈是よりさきに御ゆする有べし〉御ゆどのはてぬれば、寅の時に御褂の人めして御装束たてまつる、〈◯中略〉清凉殿の三間の格子おあげて出おはします道とす、〈雨降ときは、御座お弓場殿にまうけたるによりて、額の間より出させ給ふ、額の間とは南より五間二間のそばなり、〉筵道布毯おしきて屏風のもとに至る、うへのおのこどもしそくさす、近衛の中将御剣にさぶらふ、屏風のもとにて蔵人頭御笏おまいらす、先北辰お拝する座にて二拝、〈属星の名おとなふ〉次に天地四方お拝する座に著き給ふ、御座のうへに褥おしく、北向にて天お拝し、乾にむかひて地おはいす、子のかたより卯午とり四方各皆二拝なり、御座のまへに白木のつくえに香花灯お置り、北辰お拝する座に式筥お置、〈くら人是お置〉若二陵あらば、うしろに又一帖是おしく、おの〳〵両だん再拝なり、御座は皆両面のみじかきたヽみなり、御拝はてヽ入らせ給ふ、蔵人頭御さうかい御笏お給はる、