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おもひのまヽの日記
ことしはけふの節会より、年の中の公事ども、古き跡お尋ね、めづらしき事おおこさせ給ふ、末の世のためにもとて、かたのごとくかきつけ侍なり、〈◯中略〉やう〳〵節会の御装束催す程、両殿〈◯前関白、関白、〉台盤所に侍らふ、其ほか左右の大臣、左右の大将など、さりぬべきにつきて、台盤所にめしいれらるヽも有べし、内侍威儀の人々、台盤所につきたり、典侍たち朝餉の間に侍らふ、きぬの色あひ、物の心ばへ、えならぬさまいづれともわきがたし、たヾ春の花、秋の紅葉おこきまぜたる心地ぞするや、内侍威儀などは数さだまれるほどに、わざと見所ありて、おかしきおえらばせ給て、廿人ばかりつけさせ給ふ、さりぬべき若き人々まいりたれば、扇さしおかせて、もてなやめるおもヽちなど、けふお晴とつきじろふも、ことはりならむかし、若き上達部たちは、はかなき思草の種となるもあるべし、たヾ天つおと女の天降れるかとぞ覚え侍、よろづあまねき御愛しみにひかれて、せいしよくおもてあそばしめ給はねども、おのれとかヽるたぐひはまいり集るなるべし、節会の儀式また常の事なれど、立楽などふるきにまかせて、御ぜんの種々まことのからものどもおつくさる、酒の正など参りて、行酒のぎしきなどいとめでたし、よろづ昔おおこさせたもふゆへに、内弁まへの物てまさぐりに取りて食ふも有べし、三献の後、諸卿えひすヽみて唱歌し歌うたひて、かは笛ふくもあり、天暦の古風いと面白し、太政大臣れちにはくははらで、脇より昇りておくの座に侍らふ、これもふるき例なるべし、かやうの事ども数々多けれどみなもらしつ、