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歌林四季物語
一春
さて夕つかたより、百のつかさのおりにあふかぎり、おのがさま〴〵のつかさづかさ、とりわきて外記は、ぎしきくわんのひぢもちおかしく、衛士のたく火の古代めきて、くまぐまとあかく見えわたる、ところ〴〵の机丁のかたへの、きぬかづきのおんなヽど、わがかたざまのこと、くち〳〵いひわたり、うたまひの司人、なにくれのふきもの、ならしもの、雲井おひヾかす、かヽるおりには、あまつおとめも袖おひるがへすべく見え、わたつうみのおとめ子も、もにあらはれぬべし、小夜もやう〳〵更て、うしの比ほひ、うへにも南殿にならせ給ふは、松明のほかなるみかげに、はとりの女じゆのよそほひ、執柄の御きよにつかうまつるも有がたく、あさましきまですさうにみえたてまつるに、すないもの申のうたまひすヽむるもおかしからぬかは、くず、たちがく、はら赤の奏などみな神々しきためしなるべし、