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今昔物語
二十四
小野宮大饗九条大臣得打衣語第三
今昔、小野宮の大臣の大饗行ひ給ひけるに、九条大臣は、尊者にてなむ参給へりける、其御送物に得給たりける、女の装束に被副たりける、紅の打たる細長お、心無かりける前駈の取て出けるに、取はづ〈◯はづ二字、以宇治拾遺補、〉して、遣水に落し入たりければ、即ち迷て取上て打振ひければ、水は走て乾きにけり、而るに其湿たりける方の袖の露、水に湿たりとも不見して、不湿方の袖に見競けるに、唯同様になむ打目有ける、此お見る人、打物おぞ誉め感じける、昔は打たる物も、此様にぞ有ける、今の世には、極て難有き事也となむ語り伝へたるとや、