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源氏物語
二十三初音
けふは、りんじきやくのことにまぎらはしてぞ、おもがくし給、上達部みこたちなど、例の残りなくまいり給へり、御あそびありて、引出物ろくなど、になし、そこらつどひ給へるが、我もおとらじともてなし給へる中にも、すこしなずらひなるだに見え給はぬものかな、とりはなちてはいうそくおほく物し給比なれど、御まへ〈◯源氏〉にてはけおされ給ふもわろしかし、何のかずならぬしもべどもなどだに、この院にまいるには、心づかひことなりけり、ましてわかやかなる上達部などは、思ふ心など物し給ひて、すヾろに心げさうし給つヽ、つねのとしよりもことなり、花の香さそふ夕風のどかに打吹たるに、おまへの梅やう〳〵ひもときて、あれは誰どきなるに、物のしらべどもおもしろく、このとのうち出たるひやうし、いと花やかなり、おとヾも、ときどきこえ打そへ給へる、さきくさのすえつかた、いとなつかしうめでたくきこゆ、なにごともさしいらへし給御ひかりにはやされて、色おも音おもますけぢめ、ことになんわかれける、