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歌林四季物語
一春
そも〳〵あら玉のとしたちかへる、くもいの庭の、御おほやけごとよりはじめものして、あまざかるひな人までも、むつきのことたつことぶきのめでたかるべきためし、はじめためりしは、こともおろかや、人の世みはしらにあたらせたまふうきあなのみやい〈◯安寧〉より、この事宮の中にてもとりおこなひ給ひ、四の海の外までもいはひものすることになりぬ、まことにいつとはなけれども、一とせのとぢめとはしるくも見えてたてまつる御気しかうぶりてつらまでも春めき、ふるとしの具は古代めきたるは、人の心の花になりゆくなるべし、◯按ずるに、正月元日お祝すること、安寧天皇の朝より始まると雲ふは、根拠なき説なり、此事既に神武天皇の元年に在り、朝賀篇お参看すべし、