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増鏡
五烟の末々
寳治も三年に成ぬ、春たちかへるあしたの空のひかりは、おもひなしさへいみじきお、院〈◯後嵯峨〉うち〈◯後深草〉のけしきまことにめでたし、摂政殿にも拝礼おこなはる、院の御まへはさらにもいはず、大宮院〈◯後嵯峨后吉子〉にもあり、まづ冷泉までのこうぢ殿といふは、わしのおの大納言たかちかの家ぞかし、このごろ院のおはしませば、拝礼に人々まいり給ふ、摂政殿、〈兼経〉左大臣、〈かねひら〉右大臣、〈たヾいへ〉内大臣、〈さねとも〉大納言にはきむすけ、実雄、あきさだ、道良、中納言にためつね、よしのり、資季、冬忠、実藤、公光、みちなり、定嗣、さいしやうにみちゆき、もろつぐ、あき朝、殿上人はりやう貫首おはじめかずしらず、つねのとし〴〵にこえて、此春はまいりこえ給へり、人々たちなみ給へるとき、左のおとヾは摂政の御子なれば、引しりぞきてたち給へり、右も又そのおなじつらにたヽれたるに、内のおとヾすヽみいで給へり、夫につきて大中納言もおなじつらなり、よしのり、きんみつ、師継、あきとも、またしりぞきてたちたれば、いで入して屏風ににたり、この事みにくしと、のちまでさま〴〵院の御まへにおほせられて、摂政殿にたづね申され、さたがましく侍りけるお、貞応元年のためしなどいできて、古のヽみや左大臣〈◯公継〉いまの内のおとヾ御おや、右大臣にてしりぞきたるつらにたヽれたりけるお、そのときのきろくなど見給はざりけるにやとて、内のおとヾの御ふるまひ、心えずとぞさたありける、〈◯中略〉又大宮院の拝礼めでたくぞ侍りける、