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甲子夜話
五十七
正月六日衆僧御礼、寺社の年頭御礼は、例年正月六日大広間にてあり、出礼の僧に聞くに、独礼格の寺社は、一人づヽ、著坐なれば、勿論次第ありて混ぜざれど、総礼の者は〈各献上もの有り、扇箱等お自お持出るとぞ、〉一同著坐して礼伏のことゆえ、浄土、真言、諸禅、法華、門徒、其余宗社人山伏まで、先に進たる者前坐して、僧祝数百、混雑なりとぞ、その中西の久保光明寺〈法華宗〉は例年梅の鉢植お献上すれば、此物上覧のため御下段御襖の外、二の間御鋪居際に置く、其右に本庄華厳寺〈浄土宗〉折枝の梅お献上して置く、其左に谷中天竜院〈禅宗〉これも亦折枝の梅お上る、依てこの三僧は例年献上ものヽ為に総礼の上坐おするとぞ、又この日のことヽよ、徳廟の御時か、奏者番披露すると、僧一人御柱より上り、鴨居に釣下りて、尊容お望たりとぞ、諸人群囂の状想ふべし、