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有徳院殿御実紀附録

大岡越前守忠相、〈◯中略〉寺社の奉行命ぜられし時、はじめてその曹司に入んとせしに、同僚井上河内守正定、こヽは奏者番の伺公する所なり、おことは寺社奉行おこそ命ぜられたれ、奏者のことはいまだ奉らざればいるべからずといなみしかば、忠相その日は休息する事お得ざりしが、後にこの事お聞召れ、奏者の曹司の隣に、別に寺社奉行の居所おくだし賜はりしとなり、さて河内守其次のとし正月六日、出家社人拝賀の時、播州書写山の社僧総代の名だいめんするとて、いひあやまちけるお、いさヽかおそるヽけしきなく、かほお仰ぎ、尊顔おみながらあざ笑ひたり、其心不敬なりとて、御咎蒙りぬ、公もとより御寛仁なりといへども、不敬のふるまひするものお、つねに重く罪し玉ひけり、