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明君遺事
従四位下侍従土佐守豊常君、〈◯中略〉江戸にて御在府の毎年正月四日、御家御出入の町人職人共、それ〴〵の捧物して御礼申上る事也、先例にて御近習の面々、其外諸役人中、右町人職人共の指上たる進物お、鬮取にして配当せり、しかるに御役人分は、鬮取に不及して、各望の品お一色も二色も指取にする事、是亦いつの頃よりか仕来となりぬ、巳の年正月鬮取畢て、御近習の面面へ、取たる品御問被遊、此時御役人中鬮取に及ずして指取にする由お、初て御聞被遊仰けるは、役人共の鬮取なくて、望の品お指取にいたす事心得ず、去ながら今年は最早過去ぬる事なれば、其沙汰に及ぶべからずとなり、此御意承り伝へ、役人中甚畏服して来年の事お誡めり、誠に不令して向来お示すとは、箇様の事お可申、