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甲子夜話
四十五
年始退朝のとき、次手に老若衆回勤すること、烏帽子大紋のまヽ回ることもあり、此頃九鬼長州〈隆国、初和泉守、〉我肥州に話せしは、某祖父存在のとき、此事にて烏帽子、駕のやねに中りて、度々の出入不自由なり、因て年始の回勤は、麻上下に著替たる方然り抔雲し者ありしお聞て、何条出入の碍になるべき、我勤し頃は烏帽子は著ず、手に持て白洲お歩行たり、駕籠の中にのこし置ては宜しからずと誨へしが、流石今の世には斯くは為がたしと、長州雲たりと肥州語れり、この頃のさま想知るべし、この祖父は隆邑と雲て、徳廟の頃より勤めて、近年九十余にて卒せし人なり、武人なりし、