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水谷蟠竜記
常陸国久下田の城主水谷蟠竜は、〈◯中略〉同午の正月〈◯天文十二年〉村々の百姓おとなしき者共、御礼申上候嘉例にて、備一重并食酒にて終日の御馳走なり、百姓ども申候は、例年より当年は餅の廻りちひさく御座候とねだる、蟠竜仰けるは、餅の大小は、おのれら次第に年貢さへおほく上るならば、ふじの山程にしてもとらせんと仰らるれば、百姓申けるは、我等は下臈なれば、上お恐れずむざと物お申事御嗔り有べきに、狂敷お御意なされ御機嫌能事、不思儀なる御生れかなと申、笑悦びける、