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栄花物語
二十七衣の珠
とし〈◯万寿二年〉もくれぬれば、一夜が程にかはりぬるみねのかすみも、あはれに御覧ぜられて、山里いかで春おしらましなど、うちながめさせ給に、ついたちの日もくれて、二日たつのときばかり、弁のきみ〈◯藤原公任子定頼〉まいり給へり、思ひがけぬほどの事かなとおぼさるヽに、御装束もたせ給へりける、かくれのかたよりうるはしうして、御まへ〈◯公任〉にいでヽはいしたてまつり給なりけり、人なかのおりの御すまいだに、なほわが御心にはすぐれておぼさるヽ御有さまの、まいてさるやまのなか、たにのほとりにては、ひかるやうに見え給に、あないみじ、これお人にみせばやと見るかひあり、めでたのたヾいまのありさまやと、人のこにてみんに、うらやましくももたまほしかるべきこなりや、みめかたち心ばせ、身のざえいかでありけんと、あはれにいみじうおぼさるヽにも、御なみだうかびぬ、さて山ざとの御あるじ、ところにしたがひおかしきさまにて、御ともの人にも御みき給て、かへり給なごりこひしくながめやられ給、