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三養雑記

屠蘇少年より飲始 屠蘇にかぎりて年少のものより飲始むるよしは、〈◯中略〉吾邦の古も亦然り、内裏式に、元日就内侍取机盛屠蘇雲々、尚薬供御先賜少年とあり、又屠蘇考雲、盧柳南小簡に、屠蘇卑幼より始むること不巽なり、元日は一歳の始め長幼の分お正し、長者より始むべしといへるは、理さもあるべきことに聞ゆれど、考の足らざるに似たり、其よしは屠蘇もと邪気お辟る薬方にして、卑幼より始むるは、全く薬お用ゆる法お借たることヽ思はる、礼記に君の薬お飲には臣先嘗む、親の薬お飲には子先嘗むといへり、説苑に殷の湯王の言お載せて、薬食は卑に嘗て貴に至るといふ、これにて考ふるに、家内の人々こと〴〵く屠蘇お飲むに、かりそめにも薬の名あれば、先こヽろむるものは誰おか先にし誰おか後にせん、故に卑幼おはじめとすること、至極のことわりなり、是全く聖人薬お用ゆる礼教おかり用ゆることヽ知るべしといへるは、確論といふべし、