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建武年中行事
夜もすがら事お行ぬる、〈◯四方拝の事お行ふなり〉おのこどもまかでぬれば、御薬申沙汰すべき蔵人殿上に侍ひて、つかさ〴〵もよほすなど、女蔵人どもやう〳〵台盤所に参りあつまる、うちうちの御したヽめはてぬれば、御直衣お奉る、〈打衣はかま二つ、衣ひとへなり、〉所司まいりぬるよし奏するに付て、御薬につかうまつるべき命婦蔵人ども、かみあげそうぞくして座につく、昼の御座の御簾南のはし北の額の間おたれたり、〈此間に承香殿の人、昔はさぶらひけるとかや、〉中三間或は二間、御簾もとのまヽにあげたり、おの〳〵几帳おたてわたす、ちか頃里内裏などにて、あたりの間一間、中はむにあぐる事あり、ひがことなり、今の代には本儀に任せて、つねの時のごとく鉤丸おあぐ、御座のまへに、〈いささか南〉陪膳の典侍の円座これおしく、次の南円座一枚くすりのかみの座とす、石灰の壇北のはし西東のつまに、両めんのたヽみおしきて命婦蔵人の座とす、南第二の間の弘廂に円座一枚おしきて後取の座とす、典侍已下女房皆座につく、女蔵人二人、〈上首〉鬼の間より御台おもちてまいる、〈一の御台にはしだいあり、これも近頃はなきよし女官申、日記にまかせて是おすう、〉これよりさきに昼の御座に著かせ給ふ、生気の方の御衣お、尋常の御直衣のうへにかさねて奉る、〈朝餉にてこれおめす、勾当の内侍これお用意してさぶらふ、日の御座にてもめす、〉陪膳の典侍薬のかみ当色お著す、〈生気の方の色の事なり〉其外は著せず、はいぜんの典侍の髪は内侍これおあぐ平額なり、此時まづ御厨子所の御はがためお供ず、〈◯中略〉御はがためまいりて、此薬子鬼の間よりすヽみて、端の几帳のもとにさぶらふ、女官青鎖門のほとりにて、典薬おめしてみくすりおもよほす、小庭にて典薬のかみ、侍医、宮のうちのつかさ、おの〳〵まづこれおなむ、一こんすヽみて先薬子にのましむ、次に銀器に入て几帳のほころびより〈御座の次の間〉奉る、くすりのかみ是お取て、銀器のふたおひらきて典侍につたふ、〈是おめして返し給ふ、女官給て陪膳につたふ、〉主上座お立せ給ひて、夜の御殿の南の戸より入給て、御ぬりごめ東の方の戸に向ひて立せ給へば、陪膳御盃お持てまいらす、是も屠蘇はひがしの戸に向て飲よし本文あるゆえか、次に女官に返したまへば、是お後取の人にのましむ、〈一日は四位、二日は五位、三日は六位蔵人なり、晦の日、奉行の蔵人これお切紙に書て、殿上の角の柱におすなり、近衛府弁官常にはあらねど例あるなり、さて二献には神明白散おくうず、〉むかしはさかなお後取の人にたまふ事あり、〈大根おたぶ、女蔵人給て扇にすえてこれおいだす、元日は人人精進のゆえかといへり、三献に度障散お供ず、如此御薬の〉〈儀式は三箇日なり、江次第に見えたり、〉三献のたびは、夜のおとヾの東の戸にむかひて是おめす、薬のかみ是お持て、二間より陪膳に随ふ、立ながらめすなり、後取に給はる事皆同じ、三献はてヽ御はがためおいだす、一度に一盤にすう、三日の儀是におなじ、但第三日夜のおとヾより、御座へ帰りつかせ給て後、かうやくおたてまつる、二ばん〈銀器に入れたり、無名のゆびに付て、御ひたひ並に御耳のうらにつく、薬師の印相なり、〉是はうちに留めらる、くすりのかみ是お取て、鬼の間よりまかりいだす、こよひうち〳〵女房に頒ち給ふなり、