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昔昔物語

昔は大身小身衆は申に及ばず、下下軽き一人も召仕ふ程の者町人迄も、正月は椀飯(わうはん)振舞とて、親類縁者子供迄洩さず呼び集め、夫々酒食分限相応に結構して、目出度と寿うたひののしり、酒もりして遊ぶ、是遊ぶばかりに非ず、年中遠々敷打過たる親類も、此椀飯振舞年始の第一の祝儀なれば、一家親類つどひ集り、又は不通不和にて過候親類は親方へ詑び、此椀飯振まひの人数に交る為なり、又誰の子息もはや年たけらるヽ間、今年緑組然るべし、又は誰の息女当年中縁辺如何様の所望るヽや、或は家古びたる人へは当年御普請可然と、年中の大用も談合し、機げんよく退散せられしなり、是故に疎なる親類の中も、正月の椀飯振舞より亦したしく成事あり、
◯按ずるに、椀飯の事は、礼式部饗礼篇に詳なり、