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浪花の風
市中年中定りし食物のあらましお聞に、正月元日、二日、十日には、焼物におしなべて塩鯛か塩鰯お用ゆ、元日雑煮餅は、多分味噌汁にて、昆布、芋、焼豆腐、大根等お加ふ、二日はすまし雑煮にて水菜計り、他物は不加、屠蘇肴は、凡数の子、牛蒡、ごまめ、三種は一統に用ゆ、茶菓子は西条柿に蜜柑昆布に限るよしなり、十日は十日夷とて必家毎に祝ひて塩鯛お用ゆ、其外年始客へ出す肴、塩ぶりお用ゆ、都て江戸にて塩引鮭お用るが如し、此塩鰤の骨に附たるお、其儘に貯へ置て、廿日に至りて、酒の糟にて汁の如くになし、享て喰ふよし、是お骨正月と唱ふと、市中一般なり、また六日年越には一同に麦飯なり、