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守貞漫稿
二十六
蓬萊 古は正月のみの用に非ず、式正の具と雲にも非ず、貴人の宴には唯臨時風流に製之、今も貴人の家には蓬萊の島台と雲、島台と雲は洲浜形の台お雲也、〈◯中略〉今俗は島台と蓬萊は二物とし、島台は婚席の飾とし、蓬萊は正月の具とし、其製も別也、〈◯中略〉 今世は三都とも蓬萊同制なれども、京坂にては蓬萊と雲、或は俗に宝来の字お用るもあり、江戸にては蓬萊と雲ず、喰積と雲、くひつみと訓ず、其製は三方に、中央松竹梅、蓋し真物也、造り花には非ず、三方一面に白米お敷もあり、其上に橙一つ、蜜柑、橘、榧、搗栗、萆薢、ほんだわら、串柿、昆布、伊勢海老等お積は、注連縄の飾と同物なれども、池田炭はなし、裏白、ゆづる葉、野老、神馬藻お必ず置之、蓬萊、京坂にては、正月床の間の飾物の如く置居へしまヽ也、江戸の喰積は、正月初て来る客には必先づ出之、客も聊か受之、一揖すれば元の処に居へ置く也、或は喰積お製せず、熨斗蚫お出すもあり、熨斗蚫も江戸にては長のしおも用ふれども、近年俵熨斗と雲て、図の如き物〈◯図略〉流布す、
 ◯按ずるに、朝廷及び武家に取初の祝あり、其儀全く蓬萊に同じ、故に此条下に収録す、