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神代余波

正月元日朝嚏すれば、傍より常(とこ)万歳といふ事あり、みづからは糞食(くそくらへ)といふ人あり、常万歳は天竺にて、長寿といへるよし四分律にあり、から国にては、沿虁離(えんきり)〈万歳と雲義也〉といへり、また糞食は簾中抄、壒嚢抄、拾芥抄等にある、休息万命(くさめ)とよき字おえらびて仮たるお、字のまヽに休息万名(くそまめ)とよみたるおあやまりて、糞食となりしならん、かヽる事はあまた記して、神代のなごりに似つかはしからねど、既に清少納言もしたりがほなるものといへるくだりに、むつきのついたちの早朝に、最初に嚏たる人と、枕草紙にいへり、亦下つ巻のとぢめにしあれば、祝辞戯言まじへて、かくはいへる也、かヽるも猶神代のなごりぞかし、