[p.0853]
鹿之巻筆
正月は物いまひ 田所町に、かふしう屋の甚右衛門とて、代々法花宗にて、ものいまひおせらるヽ、きうとう廿八日までしやうばいいそがはしさ、かざりのどうぐもこしらへざるゆえ、作介およびて、かざりなはおなへといふに、作介手おついて、ぶてうほうなるわたくし、かざりおいたさば、ろくではござるまいといふ、ていしゆ気にかけて、ばかめがといふて、そばなるまきおなげつける、作介、これだんな、またなげきおなさると雲、甚右さて〳〵ぜひもなきたわけじや、さやうの事はぬかさぬものぢや、あすは大つごもりぢや、かならずそそうおいふな、ことに元旦には諸事とりおとし、物おうちわりなどしても、めで度なつたとばかりいへと、いひつけけるに、たなよりものヽおちかヽりければ、作介ちうにてとり、わがあらんかぎりは、めつたにめでたくはせまいといふた、