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三養雑記

元日にはぜおまく(○○○○○) 近きころまで、元日の朝まだきにはぜおまくならはしありて、はぜ売といふものあまねく来りしが、いつしか武家にのみその風遺りて、町には売来らずなりし、これはもと伊豆の三島明神の池の鮒は、明神のつかはしめなるよし雲つたへて、毎年元日池の鮒に、はぜおまきてあたふる神事あり、元日にはぜおまくことは、かの神事起源なるべしと、伊勢安斎の説なり、又ある人の説に、むかしははぜにする料の餅米おもとめて、家々に煎り試むるに、よくはぜる年は吉、はぜのあしき年は凶なるよしお占ふことなりしが、後には隻はぜお買てまくことお吉兆とするのみなりしといへり、按に、戒菴漫筆に、東入呉門十万家、家々爆穀卜年華、といへるは、爆勃婁の詩なり、これお併せおもへば、和漢一般の風習にて、ある人の説およしとすべし、