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山之井

あら玉の年立帰る心おつらねば、たて松はにほんによせて君おことぶき、かざるほながは国のとみくさになぞらへて、豊年お祈る、九重の空の上には、四方拝小朝拝など政事繁けれど、地下にさた〳〵沙汰し知べきわざにも侍らじなれば、隻見えわたる四方山の、いつとなくうちかすみて、いひしらず長閑なる景気、けさあたヽむるかんの氷も、かつ隙見する池の鏡餅おさへとりよせて、ちとせのかげもくまなき家の内の心祝儀ども、蓬萊の台など置て、不死の薬の酒くむやうす、ゆるりくはんすととヾおして、おほぶくいはふていたらく、外にはしめかざり(○○○○○)、内には年徳、わかえびすおむかへ、庭には庭かまどたき、ふくわらおしきたへ、うないやひすましらの、ほうびきや何やといひ遊び、庄屋の一番ふもはま弓おいたへありき、じやうどのヽおこうは、はごいたもてはねまはり給ふありさま、物まふといふ礼者の顔も、御出のよしまふといらふ下部がつらも、よひの年の寒さいそがしさおわすれはてつヽ、わかやぎあへる気色など、詞のえん花やかに、ひとヽせの始、巻頭の心なれば、たけたかくすなほにあらまほし、