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世諺問答
正月 問て雲、一月よりしづが家いに、門の松とてたて侍るは、いつごろよりはじまれる事ぞや、 答、いつごろとは、たしかに申がたし、門の松たつる事は、むかしよりありきたれる事なるべし、しづが家居は、大かた封戸なるによつて民戸と申侍れど、むかしは一町のうちお五丈づヽにわりて、門おたてしかば、八の門ありしなり、その中に、賎が家いおつくり侍れば、門なかるべきにあらず、その門の前に松竹お立侍り、松は千とせおちぎり、竹はよろづ代おちぎる草木なれば、年のはじめの祝事にたて侍るべし、またしだゆづり葉は、深山にありて、露霜にもしおれぬ物なれば、しめ縄にかざりて、同じくひき侍るにや、しめ縄といふ物は、左縄によりて、縄のはしおそろへぬ物也、左は清浄なるいはれ也、端お揃へぬは、すなほなる心なり、さればあまてるおほん神の天の磐戸お出で給ひし時、しりくめ縄とてひかれたるは、今のしめ縄也、浄不浄おわかつによりて、神事の時は必ひく事に侍り、賎が家いにひく事も、正月の神おいはひまつる心だてなるべし、