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守貞漫稿
二十六
門松、〈◯中略〉近年江戸にて稲穂の付たる藁お以て、輪注連お小し大形に精製し、或は奉書紙お蝶の如く折たるなど、飾りとなしたるお、床の間、或は坐敷の内、然るべき柱などに掛ること、風流お好む家に専ら用之、効之て常の小輪飾にも稲穂お用ふるも製し売る、 京坂門松注連縄のこと、武邸等は多く図の如く〈◯図略、下同、〉製し、坊間にても三井、大丸、岩城、小橋屋等、呉服現銀店は必らず図の如くす、然も呉服店も右等の大店に非れば、此如くに飾らず、其他は豪富巨戸と雖ども、左図の如く、戸口両柱の上、或は下に門松お釘し、戸上に麁なる注連縄お張のみ、前垂注連お用、門松に竹お添ず、松根多く砂お盛る、注連縄の飾には裏白、ゆづる葉、海老、だいだい、蜜柑、柑子、串柿、昆布、榧、かち栗、池田炭、ところ、ほんだはら、大略三都相同、榧、かちぐりは紙に包む也、 江戸武邸は勿論、市中にても呉服大店のみ非ず、諸売とも大店には専ら此制お用ふ、如図に飾らざる門松には竹お添へず、松のみお専とす、 是も前垂注連也、松の根専ら薪お以て囲む、或は松お中央に其三方に薪お地に打て、是に縄お以て引張るもあり、蓋毎家恒例ありて一定ならず、 江戸も小戸は、京坂の如く柱に釘するもあり、図の如く太きそぎ竹に小松お添るもあり、そぎ竹お建たるには、注連縄は戸上に打也、医師など此制多し、