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嬉遊笑覧
十二草木
正月の松かざり、むかしは久しく立置たり、寛文二年寅正月六日町触に、松かざり明七日朝取可申事、其後もなほやまざりしと見えて、寛文十年戌正月、又おなじ法度の触ありて、来年よりは相触申間敷候間、毎年左様相心得可申候と見えたり、昔日の人情今より見れば、雅なきやうなれど、久習一旦にはうせがたきこと多し、武家には久しく立おくもあれど、大かたは門飾お取て、其跡に松の木梢お折て挿おく、この故なり、明暦元年乙未十二月廿二日、正月の松かざり十五日前は、此方より一左右次第取可申事と見ゆ、上総姉がさきの俗、正月門戸に榊椎などお立て松お用ひず、又三日松おたき木とせず、姉がさき明神雄神遠遊して帰らず、まつはつらきと怨み給ひしより、松お神の忌せ給ふとてなむ、