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守貞漫稿
二十六
万歳、千秋万歳の上略也、〈◯中略〉 京坂等に出る者は、大和州窪田箸尾の二村の農夫也、万歳三都に出る者、ともに正お大夫、副お才蔵と雲、大和万歳の扮、大夫は侍烏帽子に、萌木染木綿の素袍に、輪中に橘の記号お白く染出し、腰辺藍色の所に、径り二寸許の菊桐の記号あり、袴同色同紋也、各一刀お佩く、才蔵無定扮、蓋藍木綿長囊お肩にして、所得米銭お納む、大夫の袴も平袴お用ひず、かるさん或はたちつけ袴お用ゆ、 江戸に来る者は、参河お第一とす、〈故に専ら三河万歳お唱す〉而て遠江等もあり、尾張にも万歳あり、他国には不出歟、江戸に来る万歳の扮、大夫は折烏帽子に麻布の素襖お着し、大小二刀お帯る、素襖色無定、紺お専とし、記号亦無定、袴或はくヽり袴、又は常の袴おも着す者あり、侍烏帽子お不用ことは、幕府無官の士着之、歩行にて登城す、故に与之混ぜざる為也、才蔵は侍烏帽子に素襖お着して無袴也、或は無素襖、是亦米袋お携ふ、此才蔵多は総州の夫、年末江戸日本橋四日市と雲所に集る、大夫択之て雇ふ、是お才蔵市と雲、昔は大門通にて行之由、或人の話也、〈◯中略〉江戸に来る万歳の才蔵と雲もの、昔は下総あびこ村の農夫多し、近年はあびこの者もあり、或は大夫自国より伴ひ来るもあり、〈◯中略〉三河は院内村と雲に住す、此一村には他村婚お結ばず、小坂井につヾく、故に小坂井とも雲、