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本朝世事談綺

鳥追 踏歌の遺風なり、相伝ふ、延文のころ、参河国に長者あり、数千町の田甫お持、土民にして土民ならず、武士にあつて武士ならず、常に貴人高位にまじはり、三槐九棘に因あつて、富て貴き人也、代々時宗おとうとみ、遊行上人お仰ぐ、一とせ正月、遊行上人此第宅に舎せり、村の土人歳首礼お長者の家になす、その中にさヽらおすりて、うたふもの数人あり、いかなる者ぞと上人の尋られしに、鳥追と雲者也とぞ、蓋鳥追は長者の田園の鳥お追ふばかりの勤にて、妻子お養ふ者ども、長者の諺お歌にうたひ、年のはじめに、ことぶきお述るなり、唄の発端に、せぢよやまんぢよの鳥追と雲は、千代も万代も殿の田の鳥お追へし也、お長者のみうちへ、おとするはたれあろ、右大臣に左大臣、関白殿が鳥追、御内証へおとづるヽ人は、高位高官、扠は鳥お追ふわれわれかとなり、にしだもよせんでよ、ひがしだもんでよは、東西に八千町の田お持てる事お雲り、