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甲子夜話

亡友仁正寺市橋氏雲ふ、至俗のことにても、人情に協ふことは、永く伝るものと見へたり、歳暮に市中の門々にて、乞児走りながら、手に竹お打て口早なる事お言ふ、節季候と雲、いそがはしき態度あり、春初に乞児の女、衣服お飾り編笠き、三線、胡弓など携へ、弾じつヽ歌うたふお、鳥追と雲、悠々としたる容体なり、いかにもその時の人情によく協へり、年々かはらずある筈なり、