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用捨箱

粥の木 折かけ灯籠 昔の質素おうしなはず、今に古風お存するは、正月の式と、七月の魂祭りなり、それさへいつの程にか絶、江戸に近き田舎には残りし事あり、其一つ二つお記す、
向の岡〈不卜撰延宝八年印本〉 粥木 かゆの木や女夫の箸の二柱 才丸
撰者不卜は江戸の人なり、才丸は難波の産ながら、若きほどより江戸にあり、されば延宝の頃までは、粥木といふ事江戸にありし故、句にも作り、集にもいれしならんが、今はさる名だに聞ず、江戸近き田舎には猶在、所々にてすこしづヽ異なり、此句によく合するは、越谷の東大川戸村〈江戸より八里程〉の土人の話なり、彼あたりにては、正月十五日に、楊櫨お長き箸程に二本きり、頭のかたお削かけのやうに作り、鍋の粥の煎たちしとき、その頭おさしこみ、すぐに引あげ打返して、門の両脇へ一本づヽさすなりと、才丸の句是なり、粥杖お粥の木といふとは異なり、