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大鏡
四右大臣師輔
此式部卿の宮〈◯為平親王〉は、よにあはせ給へるかひ有おり、一度おはしまし〳〵たるは、御子日のひぞかし、御おとどのみこたちも、いまだおさなくおはしまして、かのみやおとなにおはします程なれば、よおぼえ御門の御もてなしも、ことにおもひ申させ給へるあまりに、その日こそは御ともの上達部殿上人などのかりさうぞく馬くらまで、だいりのうちに、めし入て御らんずるは、またなき事とこそはうけ給はれ、たきぐちおはなちては、布衣のものうちにまいる事は、かしこき君の御時もかヽる事の侍りけるにや、おほかたいみじかりし日の見物ぞかし、物見車は大宮のぼりに所やは侍りしとよ、さばかりの事こそこのよには候はね、とのばらののたまひけるは、おほぢわたる事はつねなり、ふぢつぼのうへの御つぼねにつどふ、えもいはぬうちでども、わざとなくこぼれいでヽ、后の宮うちの御ぜんなどさしならび、みすのうちにおはしまして、御らんぜしに、御まへとほりしなむたふれぬべき心ちせしとこその給ひけれ、又それのみかはおほぢにも、宮の出車十ばかりは、ひきつヾけてたてられたりしは、一町かねてはあたりに人もかけらず、滝口さぶらひの御前どもに、えりとヽのへさせ給へりし、さるものヽ子どもにて、心のかぎりけふはわがよと人はらはせ、きらめきあへりしきそくどもなど、よそびとまことにいみじうこそ侍りし、