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兼盛集
我君としごろ、民おめぐみ国おおさめおはしますこと、御まつりごとかずおほくて、山にのぼり水にたはぶれ給ふおほみあそびもみえざりき、西はおぐら山の秋のもみぢ、いたづらにその色おうしなひ、東はむらさい野の春の梅、むなしうそのかげおうしなひ、きしのほとりみづきようすみ、山の声たかうよばふ、風はえだおならさず、あめはつちくれおやぶらず、世中もたのしければ、けふの御幸もありますなり、かぎりなき我君の御とくお、おいたるは老たるおよろこび、わかきはわかきおよろこぶ、世中のたのしきことは、けふの御幸おためしとすべしとつけしめて、其日の和歌、
 子日してよのさかゆべきためしにはけふの御幸およにはのこさん