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世諺問答
正月 問て雲、正月に卯杖と申事の侍るにや、 答、おのづからもろこしに、桃杖おもて悪鬼おはらふ事の侍る也、本朝のおこりおたづぬれば、持統天皇三年正月の卯の日、大学寮よりたてまつるよし、日本紀にみへたり、其後仁寿二年正月に、諸衛祝の杖お献じて、精魅おはらふと見へたり、たヾこれ悪気おはらふこヽろなり、うづへといふものは、つくも所よりすはまの作物のうへに、いはほおつくり、いはほの中に、御生気の方の獣おつくりたてまつりて、卯杖にあはしむるなり、たとへば生気東にあるとしはうさぎおつくり、南にあるとしは馬おつくる也、延喜式おかんがふれば、兵衛督已下まいりて御杖おそうするとあり、いろ〳〵の木どもお五尺三寸づヽにきりて、二束三束にゆひてたてまつる也、是お正月かみの卯の日たてまつれば、卯杖といふなり、