[p.1089]
夫木和歌抄
五三月三日
百首御歌遊宴   慈鎮和尚
書とめしはの字に波や結ぶらん絶にし道おとおりはてねば
あはれともけふこそ桃の花ざかりかみのみのひと誰さだめけん
此二首、御歌詞雲、曲水の宴は、我国には顕宗の御ときはじまれり、いえ(○○)〈◯藤原氏〉には寛弘(○○○○)、寛治いみじき事になん申つたへたれ(○○○○○○○○○○○○○○○○)ど、その後はきこえぬお、道お得たまへるしるしに、おこしおこなはんとて、文人伶人申さだめて、すでに三日〈◯建永元年三月〉とて侍りしお、熊野火事、二日ゆふべにきこえしかば、のべられけるになん、上のみの日おとりてもおこなふ例あれば、十二日には、などきこえし物お、詩句はいたづらに文人のこヽろにおさまり、拍子はむなしく伶人のたぶさに残りて、神なり、又神なりともいはず、夢きかぬにあらざるかとのみおどろくところ、まことにたましいおたつなかだちとなりて、心おまよはすかぎりに侍りけれど雲々、