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守貞漫稿
二十六
三月三日〈◯中略〉蓬餅
古は如何なる形に製しけん、今世は三都ともに菱形に造り、京坂にては蓬お搗交へ、青粉お加へて緑色お美にす、江戸は蓬お交ゆるは希にて、多くは青粉にて緑色に染しのみ也、因雲、江戸にては大概くさもち、京坂にてはよもぎ餅と雲也、 女児産れて初ての上巳前には、親族知音より雛調度、或は人形、其他にても、種々祝ひ物お贈る、報之に此菱餅お遣るお通例とす、或は請待して饗之、或は酒肴及膳お贈るもあり、菱餅大小あれども、横長き方にて尺計りお普通とす、〈◯中略〉 菱餅雛に供するに、図〈◯図略〉の如く餅に同じき菱形の台に居る、黒塗に多く雛蒔絵あり、雛まきえは乃ち牡丹唐草の物お雲、菱餅三枚、上下青、中白也、
京坂にて初年には、右の菱の餅お贈り、二年目よりは、いたヾきと号て、米の新粉お楕円形に扁平し、聊か凹にして、一方につまみたる形お付け、凹の所に砂糖入りの赤豆餡お付け、是お重箱に盛り配るお普通とす、江戸には此物小形也、涅槃会に供し、今日不用之、