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和字正濫要略
ひヽなあそび 此仮名いまだたしかなる証お見ず、又真名はましてしらず、斎宮女御集に、うちにおはせし時、ひヽなあそびに雲々、又おなじひな社の前の河に、紅葉ちる処にて雲々、又中務集に、中宮のひヽなあはせに、かはらのかた、すはまにつくれり、ひヽなのくるまのなぬか、たなばたもけふはあふせと聞く物おかはとばかりや見て帰りなん、又雲、れいけいでんの女御、中宮にたてまつれ給ふ、ひヽなのもに、あしでにて、しら浪にそひてぞ秋は立ちぬらしみぎはの蘆もそよといはなん、俗本の仮名は証としがたけれど、これら一同に皆ひヽなとかき、又ひなともあれば是お引、俗書にひいなと書、真名は雛の字お書けり、贔負の音は、ひきなるお、音便にひいきといふごとく、ひなの音便も、ひいなといへるかと思へるにや、仮名にはさることなし、鳥のひなおいふ時、ひヽなといへることは見及ばねど、ひヽと聞えてなく物なれば、ひヽなきお略して、ひヽなといひて、それお猶略して、ひなといふにや、ひヽなおも俗にはひなとのみいひ、斎宮女御集に、ひなやしろとあれば、互にひヽなとも、ひなともいふべきにや、鳥のひなは、ちひさういたいけしたれば、装束のかたなどおも、ひながたと雲、これお思へば、ひヽなも、屋形人形よりよろづちひさういつくしきお、ひなにたとへて名づけたるにこそ、