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雛遊の記

雛の調度の数々なる其中に、犬張子(○○○)といふ物あり、是も神代より事発りて、悪魔お退け、災異お払ふ誓ひの物也、其始めは火酢芹命、御弟彦火々出見尊の御徳に及ざる事おしりて、我子孫のもの、隼人と成て仕へ申さんと誓ひ給ふ、此隼人は狗人ともいふて、常に天皇の宮墻のかたはらお離れず、吠る狗まねして、つかふまつるもの也、〈◯中略〉今の犬張子も、狗人といふ縁により、拒魔犬(こまいぬ)の形容おうつして、雛調度の中にても第一の物とするは、悪魔お払ひ災害おしりぞくる、神代の伝へものなればなり、